風街物語

 1996年春。 風見鶏

 そのお店は、丘のうえの海が見えるところにあった。屋根の風見鶏がおしゃれな洋館を、通学電車の窓からながめながら、いつか行ってみたいと思っていた。

 新学期がはじまったばかりの土曜日。わたしは、丘につづく坂道を、のぼっていった。
 海のにおいのする風が、桜並木を吹きぬけて、紺の制服に花びらを散らした。

『幸福屋』と看板がでている店のまえで、ひと息つく。
 ショーウィンドウごしになかをのぞくと、見たこともない、めずらしい物がならんでいた。

 象の形をしたバイオリン、きれいな貝がらをちりばめた手鏡、べっこう色の古時計、光る糸で織った星図のタペストリー…。

 そぉっと、ドアをあける。
 ポロロンロン…♪

 お客さんがくると、オルゴールが自動的に回るしかけだ。
 羽ぼうきで、陳列棚を掃除していた、若い女のひとがふりむいた。

「いらっしゃいませ」

 あたたかい笑顔に、ほっとしたものの、

「なにか、おさがしですか?」

 おサイフを忘れてきたことに気がついた。
 あせる。

「えっと。ちがうんです。電車の窓から、この洋館が見えて…。それであの…。一度、行ってみたいなって…」

「そう。こんなところまで、わざわざ足をはこんでくださるなんて、うれしいわ。よかったら、いつでも遊びにきてね」

 女のひとは、陽子さんといった。

 それから、ときどき『幸福屋』に通ううちに、陽子さんとすっかり仲よくなったわたしは、夏休みに、お店を手伝うことになった。

「おっはようございまーす!」

 息をきらせて、お店にかけこむと、白いのエプロン姿の陽子さんが、うす茶色の厚紙で梱包された、四角い包みをといていた。

「おはよう。ほりだしものがあるわよ」

 でてきたのは、銀色のフレームにはいったすてきな絵だった。
 淡いピンクを基調にして描かれた、美しい天使の肖像画。

 満開の桜の花びらとたわむれる花の精…。

 そんなイメージが、わたしの心に、浮かんで消えた。

「やさしくて、なつかしい感じがする」

「そう?」

 陽子さんの頬が、ぽっと輝いた。

 ポロロンロン…♪

 そのときオルゴールが鳴りだした。

「いらっしゃいませ!」

 一番目のお客さんは、茶色のベレー帽をかぶった上品なおじいさんだ。
 店内をゆっくり歩きながら、おじいさんは、棚にならんでいる品物をひとつひとつ、ていねいに見ていった。

 そして、天使の絵のまえで足をとめると、おじいさんは、ネジのきれたおもちゃみたいに動かなくなった。

「お気にめしまして?」

 その声にはっとしたおじいさんは、陽子さんを見ると、もっとおどろいた顔になった。
 けれど、すぐに落ち着いた声でたずねた。

「おげんきでしたか」

「ええ。あなたも…?」

 おじいさんは、日だまりのようにほほえんだ。

「ごらんのとおり、すっかり年をとってしまいましたよ。だが、あなたと、この街のことは、いまも忘れてはいませんよ。思い出は年をとりませんからね…」

 陽子さんは、やさしくうなずくと、わたしのほうを見た。

「れいちゃん。お客さまに、お茶をおねがい」

  カップからこぼれる紅茶の香り楽しみながら、おじいさんは、窓の外に広がる海を、いつまでも、ながめていた。
 ふたりのあいだに、おだやかな、ゆっくりとした時間が流れた。

「長居をしましたな。それではこのへんで…」

 おじいさんが、立ち上がろうとしたので、陽子さんは「ちょっと待って」と席をはなれた。きれいに包みなおして、赤いリボンをかけた絵を、

「この絵は、やっぱりあなたに持っていていただきたいわ」
と、おじいさんに手渡した。

「また、いらしてください」

 陽子さんがほほえんだとき、一瞬まわりが、光に包まれたように見えた。

「ありがとう…」

 おじいさんは、静かにうなずくと、受け取った絵をかかえて、ゆっくりとでていった。
 テーブルのベレーに気づいたわたしは、急いであとを追いかけた。
 ベレーを渡しながら、おじいさんに聞いてみた。

「陽子さんをごぞんじなんですか?」

 おじいさんは、だまって桜の木の根っこに腰をおろした。
 絵の包みをあけながら、つぶやくように、

「これは、わたしが、画学生のころに描いたものなんだよ。生涯に一度だけ、心から愛したひとをモデルにしてね。あれから、どれだけ歳月がたったのか。ここから見える海も、むかしと変わらない。そして、あのひとも…」

 おじいさんは絵を手にしたまま、遠くを見る目になった。
 わたしは、絵の裏側に黒く記された文字にふと目をとめた。

ー1953年春。風街にてー

 ということは、いまから43年前…。
 頭のなかで計算しながら、わたしはもう一度、絵のなかの天使を見つめた。
 どきっとした。

 天使の顔が陽子さんと重なって見えた。

「もしかして…」と、
 言いかけたわたしをさえぎるように、おじいさんがたずねた。

「おじょうさん。人生で一番たいせつなことは、なんだと思うかね」
「え…」
 こたえに困っていると、

「心に愛をもつことですよ」

「この世に真の平和をもたらすのも、力ではなく、いのちあるものを思いやる気持ちです。愚かな人間は、本当にたいせつなことに、いまだに気づこうとしない。悲しいことです。だが、心から望めば、ひとはだれでも天使になれる。どんなときにも愛の心を忘れないことです。そのことを、わたしに教えてくれたのは、あのひとでした…」

 おじいさんは、少年のような笑顔になると、
「あなたも、すてきな出会いを」と、片手をあげて、坂道をおりていった。



 すてきなおとぎ話を聞いたような気分で、お店にもどると、陽子さんが窓辺で、おじいさんをそっと見送っていた。

 開け放した窓から、やわらかな朝の陽ざしがふりそそぎ、陽子さんの背中にふと、光の翼を見たような気がして、わたしは思わず目をこすっていた。
[ 2005/07/31 13:43 ] メルヘン | CM(0)
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  • 盆踊り

    区民盆踊り大会で交通整理?のため、小学校の門前に立ってくれと頼まれた。町内の役員になると、いろんな用事が回ってくる。同じ交通委員のHさんも、妙心寺で夜店が出る日にご出勤だそうな。これってほんとは行政のやる仕事やないのかなぁ。交通整理って言っても、誘導の仕方など講習を受けたわけでもなし、事故ったら誰が責任とるんやろ。立ってる自分が車にひかれそう(笑)せっかくやから、太鼓の音でも楽しませてもらお♪
    [ 2005/07/30 18:57 ] 日記 | CM(0)
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  • 理由のない怒り

    今朝、なにかをふと考えていたとき理由もなく腹がたってきた。昨日、家人とちょっとした口喧嘩をしたことと関係があるのだろうか。うつや不安そして怒りなど、理由のないネガティヴな感情が湧き起きることがよくある。これまで溜めこんでいた感情のブロックが浮上しているのかもしれない。これも浄化のチャンスだと思い直し、怒りの感情をじっくり味わっていたら、5分もしないうちにイライラがおさまってきた。きっかけはなんであれ、怒りの本当の原因は外側にはなく、過去に体験した痛みが未消化のまま自らの内側にあるからだと言う。

       『バーソロミュー』から参考になる部分を抜き書きーー


    ☆怒りがわき起こってきたら、その存在を認め、自分の中にとどめます。怒りを人にぶつけてはいけません。怒りというのはもっとも深いレベルでは相手と何の関係もありません。相手を攻撃したり、いつまでもそのことを考えてむしゃくしゃしたりして気のパワーを失わないでください。怒りを味わい理解し、親しくなって、何を自分に言いたいのか発見しましょう。体の中で存分に感じとりましょう。心にどんなイメージが浮かんできますか。善悪の判断をしないように。これは霊性の進化の道なのです。気を集めているのです。善悪の判断なしに怒りをじっくり味わっていると、怒りの核心にあるものが発見できます。それはあらゆるものの核心にあるのと同じで、純粋な意識であり"大いなる自己"であり神です。
    [ 2005/07/27 09:12 ] satorix | CM(0)
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  • ハーブでダニ退治

    梅雨明けごろから、体じゅうに赤いポッチリができはじめ、
    寝るたんびに数が増えてきた。
    かゆいのでガシガシ噛む。笑
    去年とおなじ症状から察するとダニに違いない。
    殺虫剤は嫌いなので、どうしたものかとドラッグストアをのぞいてみたら、、
    あるある。蚊取り、ネズミ、ゴキブリ退治から、アリの巣コロリなどの
    防虫、殺虫グッズが棚いっぱいに並んでいた。


    殺虫剤と言えば、バルサンやキンチョールのような化学薬品のものばかりかと思っていたら、
    体にやさしいハーブが主成分になったものもたくさんあった。
    消費者の安全志向が高まっているせいだろうか、
    自然派の白猫にとってはありがたいことである。


    楽しく迷いながら、食品やハミガキなどにも使われている
    ハッカ油(?-メントール)が主成分のダニ用スプレーと、
    トイレの芳香剤みたいな液状のハーブの虫よけを買った。


    早速、お布団に噴霧。
    部屋中にハッカの臭いがして、寝ると背中がスースーして涼しかった。
    これが思ってたより効果あり、翌朝はほとんどかゆみがなかった。
    ハッカは湿布薬みたいなにおいだけど、ラベンダーやカモミールなんかだと、
    アロマ効果もあってなかなかいいかも^^みーる。

    ちなみに我が家の蚊取りはキンチョーの蚊取り線香。
    いまのは除虫菊は使ってないそうだけど、においはむかしといっしょだね。
    キンチョーの夏、日本の夏である(^▽^)
    [ 2005/07/26 15:55 ] 日記 | CM(0)
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  • じゃこ炒飯

    ☆おかずをつくるのが面倒なときによくつくる簡単料理☆

     タマネギのみじん切りを軽く炒めたところに、ごはんを入れて
     同時にちりめん山椒をパラパラ(量はお好みで)
     全体に混ぜるような感じでさらに炒める。
     仕上げは少量のしょう油をたらしできあがり♪

     超簡単でおいしい^^)
     
     お昼、"なか卯"の前を通ったら、7種類の野菜入りのカレーの写真が
     おいしそう(笑)だった。こんど食べてみよう。
    [ 2005/07/25 18:50 ] 日記 | CM(0)
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  • 自己顕示欲

    文章を書きはじめて十数年。
    投稿マニアをしてた頃は、認められたいとか有名になりたいとか思っていたが、
    年のせいかそんな自己顕示欲もすっかり落ちて、いまはただ楽しみのためだけに書いている。
    投稿が掲載されたら嬉しいけれど、ボツになってもがっくりすることはない。
    世間的な評価より内側の喜びを大切にしたい。



    ☆好きな老子のお言葉から^^)



              内側の喜び


         もしも、政治や宗教の力なんかを
         恐れなくなったら、
         その人は初めて、
         タオの偉大さを知る訳だ。
         すると今の自分の暮らしを
         大切にするようになる。
         自分の生まれたことを、本当に
         ラッキーだと思うようになる。
         そういう自分を厭わないから、
         他人からも厭われないですむ。
         タオに通じた人というのは、
         自分の実存をよくつかんでいるから、
         かえって自分を見せつけたりしないんだ。
      
         自分をとっても愛しているけれど、
         独りよがりに浮かれたりしないんだ。
         世間の権威を断って
         自分の内側の喜びを大切にするんだ。


                  タ オ(ヒア・ナウ) ー加島祥造 訳
       

    [ 2005/07/23 11:40 ] ことのは | CM(0)
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  • 憑依

    なわさんのBBSで、霊に憑かれたらどうするかが話題になっている。私も最近、自宅のソファーでうとうとしていたときに、近くになにかの気配を感じて「気持ち悪いなー」と思ったことがあったが、心のなかで「ありがとうございます」を唱えていたら、いつのまにか嫌な感じは消えていた。とっさのときに出てくるように、ふだんから習慣的に唱えているといいと思う。

    それと「いるな」と思ったときは、こわがらないほうがいい。こわがると相手に?よけいにエネルギーを与えてしまうから。と言っても、やっぱりこわい(笑)ので、そんなときは「ありがとうございます」の言霊に力をもらうつもりで唱えてみてはいかがだろう。

    自分でできる簡単な浄霊法は、黒砂糖と水とお酒を用意して「ここに黒砂糖と水とお酒があります。お好きなものをおめしあがりください」と霊に話しかけ、そのまま数日間放置しておくというのがある。簡単なものならこれだけで浄化されると言うが、いわくつきの霊の場合は、もっと具体的な言葉で諭すように語りかけ、近くの川に連れていって(^^;流すといいらしい。
    私も二回ほどやってみたが、効果のほどはいまいちわからなかった。

    「病は気から」
    プラシーボ効果というのもあるので、霊が気になる人は一度やってみるといいかも。
    [ 2005/07/22 09:48 ] satorix | CM(0)
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